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1.5億円が8.6億円に化けた元国税職員の競艇──「才能があった」のか、数字で検証する

コラム
1.5億円が8.6億円に化けた元国税職員の競艇──「才能があった」のか、数字で検証する

税務調査で知り合った資産家の女性から1億5000万円を受け取り、それを元手に競艇にのめり込んでいた元国税職員のニュースが話題になっています。3年間で舟券を2,672回購入し、使った金額の合計は約8億6000万円。払戻金の申告漏れ(約3億3400万円分)により、約1億3500万円の所得税を脱税したとして摘発されました。

このニュースに対してよく見かけるのが、「元手1億5000万円で8億6000万円分も舟券を買えたなら、相当勝てていたんじゃないか」「競艇の才能があったのでは」という見方です。

たしかに数字だけ見ると景気がいいのですが、公表されている情報を整理して計算してみると、「賢く稼いでいた」とは言えない、むしろ典型的なギャンブル依存症の症状に近い姿が浮かび上がってきます。今回はその根拠を、なるべく簡単な数字で説明してみます。

なお報道には「受け取った1億5000万円を女性に返済した」といった記述が見当たらないため、この記事では元手の1億5000万円は最終的に使い切った(手元に残らなかった)という前提で計算しています。

1. 全レースに手当たり次第賭けていたわけではない

まず購入回数の2,672回という数字だけ見ると、かなり多いように感じます。しかし、これを開催期間(3年間・約1,095日)で割ってみると、

$$2,672回 ÷ 1,095日 ≈ 1日あたり2.4回$$

程度で、体感としては「毎日欠かさず2〜3レース買っていた」くらいの頻度です。実は、日本全国で1年間に開催されるレース数はざっと5万5000レース前後(24場合計、1日12レース換算)。3年分だと16万レースを超えます。

$$2,672回 ÷ 約16万レース ≈ 1.6\%$$

全国のレースのうち、賭けていたのはわずか1.6%程度にすぎません。一方で、SGやG1といったグレードレース(3年間で該当レース数はおよそ8,000レース程度)に絞って考えると、

$$2,672回 ÷ 約8,000レース ≈ 33\%$$

と、こちらはかなり高い比率になります。つまり手当たり次第に買っていたわけではなく、注目度が高く配当も動きやすいグレードレースを中心に、狙いを定めて買っていた可能性が高いということです。機械的な博打ではなく、本人なりに「勝負レース」を選んでいたわけです。

2. 「8億6000万円使えた」のは稼いだからではなく、回し続けただけ

ここが一番の誤解ポイントです。元手1億5000万円に対して総購入額が8億6000万円というのは、同じお金を何度も何度も舟券に突っ込み直した結果であって、儲けた分をそのまま生活費などに回さず、ひたすら舟券に戻し続けていたということを意味します。

$$8億6000万円 ÷ 1億5000万円 ≈ 5.7倍$$

元手が平均して5.7回転した計算です。当たった分をそのまま次の舟券代に充てる、を繰り返せば、たとえ通算で負けていても延べ購入額はどんどん膨らんでいきます。「8億円使えた」という数字の大きさは、稼ぎの証拠ではなく、単に回転数の多さを表しているにすぎません。

3. 回収率は82%程度──勝っていたとは言えない水準

では実際どのくらいの成績だったのか。元手を使い切った前提で計算してみます。

  • 使った金額(総購入額):8億6000万円
  • 最終的に手元に残ったお金:0円(元手を使い切ったと仮定)
  • → 払戻金として戻ってきた金額の合計は 8.6億 − 1.5億 = 約7.1億円

$$回収率 = 7.1億円 ÷ 8.6億円 ≈ 82.6\%$$

舟券は購入金額のうち約75%が的中者への払戻に回る仕組み(残りは主催者側の取り分)なので、理論上のベースラインはおよそ75%です。82.6%はこれよりやや良い程度で、特別上手いとは言えないものの、極端に下手というわけでもない、ごく平均的な数字です。少なくとも「才能があった」と呼べるほどの回収率では全くありません。

4. コツコツ型ではなく、一撃を狙う荒い買い方だった

回収率が82.6%(=通算では負け)なのに、申告漏れとなった払戻金は3年間で約3億3400万円という大きな金額です。ここに矛盾を感じるかもしれませんが、これは競艇の税金のルール上、当たった舟券の払戻金からは、外れた舟券の購入代金を一切差し引けないためです。外れ分がどれだけ多くても、税金の計算上は無視されます。

つまり「通算では負けているのに、当たった分だけ見ると3億円以上のプラスになる」というのは、外れも多いけれど、当たったときの払戻金の金額がかなり大きかったということを意味します。1回あたりの平均購入額を計算すると、

$$8億6000万円 ÷ 2,672回 ≈ 1回あたり32万円台$$

にもなります。これはコツコツ小さく当てにいくタイプの買い方ではまず出てこない金額感です。手堅く勝率を積み上げるスタイルではなく、大きく張って一発の払戻金で取り返そうとする、ハイリスクな買い方をしていたと考えるのが自然です。

まとめ:賢く稼いでいたのではなく、抜け出せなくなっていた

ここまでの数字を並べると、次のような姿が見えてきます。

観点 数字 意味
購入頻度 1日平均2.4回、グレードレース中心 手当たり次第ではなく選んで賭けていた
総購入額/元手 5.7倍 稼いだのではなく回転させていただけ
回収率 約82.6% 通算では負け、才能があるレベルではない
平均購入額 1回32万円台 コツコツ型ではなく一撃狙いの荒い買い方

つまり、競艇で賢く稼いでいたわけではなく、負けを取り返そうとして大きく張り続け、当たった分もまた次の舟券に注ぎ込む、を繰り返していたというのが実態に近そうです。これは典型的なギャンブル依存症の行動パターンそのもので、「才能」という言葉とは正反対の状態だったと言えるでしょう。

最後に気になるのは、ここまで依存していたのがたまたま競艇だったのか、それとも競馬でもパチンコでもオンラインカジノでも、同じようにのめり込んでいたのかという点です。今回の数字から見えるのは「競艇が上手かった人」の姿ではなく、「歯止めが効かなくなった人」の姿だったように思います。

#ギャンブル依存症#ニュース解説#回収率